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ピアスを買いに。3 [追想]


この記事からの続きです。更なる悲劇が二人を襲う最終回。










いくつか済ませなければいけないことがあって、バレンタインデーの直前に日本に到着をすることになっていました。




成田のターミナル1に朝早く到着しました。税関を抜けて自動扉を通ってロビーを見渡すとくろすけがいました。抱き合ってくろすけの頬に自分の頬を寄せると滑らかでひんやりとしていてその感触だけで幸福に包まれました。




駐車場にいき、くろすけが借りてきてくれた車に乗り込みます。高速を走りながら、隣にくろすけがいることがうれしくて。靴を脱いで長時間飛行機で座り続けてむくんだ足をダッシュボードの上に乗せて、くろすけの横顔をじっと見ていました。目指すのは玉川高島屋。




店内案内を見て、ティファニーの位置を確認します。




「ここだね。指差し確認。よーし」




腕を組んでゆっくりとティファニーに向かいます。でも、その構えがすごい・・・。150%高級店でございますって感じです。とりあえず、行き過ぎる二人。戻ってくる二人。決心して店に突入する二人。




店の中には何組かのカップルがいました。ショーケースの中を眺めながらわたし達も少し会話をするのですが、こういう店に入るなんてまったく慣れていないので緊張しまくっています。それでもケースの中にお目当てのものを見つけることが出来ました。




「これだね」

「きれいだね」




と二人で話していたら、




「お見せいたしましょうか」




と、若い男性の店員さんが声をかけてきてくれました。




「お願いします」




そういうと、彼はケースを開けてお目当てのピアスを出してくれました。そして、透明の細いアクリルの板にピアスをつけて、よろしかったらご覧ください、と差し出してくれました。その手が震えています。女性同士の客がきたので不信感におののいているのか、と一瞬思いました。




くろすけにピアスを見せて、これでいいか、と聞くのですが、くろすけはなにを見ていいのかわからないらしく




「え? なに? なに? え?」




どうも、ピアスを試着することは衛生上できないので透明アクリル板につけて耳の前にかざしてみてみる、ということを知らなかったようです(わたしはそれはかろうじて知っていました)。わたしも緊張しているのでくろすけになにをしているのか説明をする余裕もなく、わけのわからないくろすけを置き去りに




「じゃ、このプラチナのものを」




とお願いをしました。




「は、はい」




そういいながら店員さんがピアスをトレイに移します。その手がぶるんぶるん震えています。ピアスは取り落とすしトレイもまともに持てないほどです。それでもどうやらこうやらトレイを持ってわたしたちをお客様用席に案内しようとしたとき、鋭い声が聞こえてきました。




「ちゃんと大きさと金属がお客様のお求めのものかどうか確かめたでしょうね?」




でた~、お局様~。




どうも、この店員さんはその日が初日だったか何かだったらしく、お局様の鋭い目に突き刺されつつ仕事をしていたようなのです。きゅっと結い上げた髪、細く形を整えている眉毛の下の一重の細い目。その目に射すくめられたらおしっこちびっちゃいそうな迫力です。




くろすけとわたしがお客様用席(っていうの? ああいうお店でお買い上げするときに案内される机と椅子のあるコーナー)で待っている間、ケースの裏でピアスを入れる箱やリボンや袋なんかを準備しながら店員さんはお局様になにか低く小さいけれども鋭い声でビシバシ言われています。もう、そっちが気になってくろすけといちゃいちゃしたり見つめあったりするどころではありません。




やがて彼がわたし達の向かいの席に座ったのですが、汗まみれです。




「お支払いは?」




と、わたしに聞いてくるけど、払うのはわたしではないぞよ。




「くろすけ?」

「あ、クレジットカードで」




この瞬間、ちょっと緊張をしました。明らかにわたしのものなのに、くろすけが渡すクレジットカード。しかし、店員さんはそんなことには気がつきません。クレジットカードをぶるぶると受け取ってカードリーダーに入れようとするけれど入らない。手が震えすぎやって。店の隅からお局様のきらりん視線が突き刺さってきます。すごい緊張感。もう、わたしがカードを取り上げてリーダーに突っ込んでやろうかと思ったらやっと入りました。




「では、サインを」




って、いかにもティファニーって感じのボールペンを差し出してくるのですが、震えてて受け取れないくろすけ。震えるボールペンに狙いを定めて奪うくろすけ。目の前にあるダイヤのピアスよりも鋭く輝くお局様の瞳。




「それではこちらでよろしいですか」




と、トレイに載せたピアスを見せてくれるんだけど、そのトレイを持つ手が震えてて、結果としてその上を転げ回るピアス。ほんとに自分が選んだのがそれかどうかわかんねー!




「それでは、箱にお入れします」




手が震えてて苦労しながらピアスを青い皮の袋に入れそれを箱に入れる店員さん。ここまではなんとか手が震えてても出来た。よし、あともう少しだ。いまだー、その白いリボンをかけろー。いけー。




しかし、手が震えててリボンがむすばらなーい。なんとか絡めたけれども、きゅっと締めることができなーい。指がぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる…。お局様の目が怖すぎる。もう、箱を奪ってわたしがリボンを自分で結んでやる・・・!




そう思ったとき、店員さんは形だけなんとか蝶結びのリボンでいいことにして袋に入れれば、お局様にリボンは見えないはず、そうだ、リボンが結べたふりをして袋に入れよう、そう決心をしたようです。しかし、ここでまたしても紙袋を開けるのに苦戦をする店員。なんとか袋に箱を入れることに成功。




ほっとする店員。すばやく袋を奪ってくろすけを引きずって店を去りたいわたし。もう、お局様が怖すぎてちびりそうなんですよぉ。しかし。店員は袋を握って離さない。指に力が入りすぎて白くなってるよ、店員~。




「お送りいたします」




はぁ? どうも、ティファニーは客の買ったものを持ってお店の入り口まで送ってゆく習慣があるようです。




「ありがとうございました」




袋を渡して礼をする店員。




「こちらこそ」(ほんとになっ)

「あ、どうも・・・」(おめーのせいでつかれたよっ)




さて、ピアスを買っている間中、くろすけがどうしていたか、なにを話したか、まったく記憶にありません。店員の震える指ばかりを見つめていたのです。そして、それはくろすけも同様です。お店の中では見つめあったり、キスなんかしちゃったりなー、てへぇ~。なんて事前まで思っていたのに、すべてが水の泡。




今でも、ピアスを触ると一番に思い出すのはくろすけのことではなくて、店員のふるえまくっていた指だというのは、悲劇ではなくてなんなのでしょうか。




帰りの車の中でくろすけに袋をもらって中を見たら、リボンは見事にほどけておりました。






ピアスを買いに。完







余談:

女同士でこういうお店に行って平気かしら、なんてわたしも少し心配でした。でも、「ティファニーで朝食を」では「ティファニーはお客様の幸せを一番大事にしております」とかなんとかいってるじゃないですか。だから、大丈夫だろうと思っていたんです。ま、はっきり言って、女同士とかそんなの一切関係ありませんでした。お局様の鋭い視線にのまれて店員さんは緊張しまくりで、わたしが猫だったか人間だったかもわかってなかったと思います。




そういうわけで、女同士だとへんに思われないかしらとか心配をしておられる方には、新人店員さんがまさに修行を始める2月の玉川高島屋のティファニーに行くことをお勧めします。まじで。


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adejyo

もうなんてオチなんでしょう(o_ _)ノ彡☆
nice!しかないでしょう、素敵すぎます。

というかお局様と新人ボーイのやり取りが面白いっ。
でも手が震えちゃうなんて、よっぽど怖いのですねぇ、お局様。

こういった一流と呼ばれるお店では、敢えて下世話に「誕生日かなにかですか?」なんて、
プライベートなんかは聞かないですよね。
アタシが旦那とショッピングするときは、アレもコレも見せてってやりまくるのですが、
お店の人が関係を即座に察知し、旦那に「大変ですねぇ~」って同情の目を送られてます(;^_^A

ちなみにヴァンクリフはヴァンクリフ&アーピルって言って、
ショップのウィンドウに平気で300万のネックレスとかを飾る高級宝飾店です。
アタシの憧れ、旦那に買ってもらいたいNo.1ショップなのですぅ。
by adejyo (2007-08-14 06:51) 

くろすけ

僕も試着?の段階では緊張してたんだけど、その後店員さんが手が震えて板からピアスを外せないのをみたらそっちに集中してしまった。笑
あー緊張で手が震えるってこういうことをいうのかーとか。笑
紙袋を持つ指が白くなってるのは僕も思ってた。笑

ちなみに、テーブルに座ってるときは僕は住所とか書かされてて観察できなかった。残念。
by くろすけ (2007-08-14 09:55) 

綾

ご無沙汰しています。
いや~、私も笑わさせて頂きました!
前職が『宝飾店』だったのでリアルに想像できてしまう^^

確かに私も新人だった頃は、全身で震えてましたね。
金額が上がれば上がるほどにお客様への対応が厳しくって。
別に差別…ではないのですが、やはり高額商品をお買い上げの方ですと
そういう場所に慣れていらっしゃるので、ちょっとした不手際でも
評判に傷がつく!って感じが暗黙の了解であったんですよ。
(まぁ、↑この感覚はウチのところ独特だったと思います)
お局様は居ませんでしたが、常に先輩社員の目は怖かったです。

色々なお客様がいらっしゃいましたよ。
でも、女性同士の来店は特に気にしません。
パートナーとの買い物の前に、『お友達』と一緒に下見に来ている
という感覚でしか見てませんから。
しのさん達の場合、くろすけさんがお支払いされているので
お支払いの段階で鋭い人だと『?!』と思うかもしれませんが。

ピアスを見ると、くろすけさんではなく『店員の震える手』は
確かに悲劇かもしれません!(笑)
by 綾 (2007-08-14 11:43) 

くろすけ

あ、そうそう、今思い出した!
透明なアクリル板をつかってしのの耳にピアスをつけるんだと思っててさー。<それまでピアスをつけたこともつけているところをみたこともなかった。
それで、店員さんとしのとふたりで僕をみるから、僕がつけないといけないんだと思って、これをどう使ったらしのの耳につけられるのかな???ってあたふたしてたんだ。
その後は・・しのと見つめ合おうとしてしのをみても、しのの視線は店員さんに釘付けで・・・悲劇でした。笑
by くろすけ (2007-08-14 14:24) 

しの

> adejyoさん

niceをありがとうございます。

もうたまらんオチでしょう。わたしもくろすけにピアスを買って、と頼んだときにこんなことになるとは予想すらしていませんでした。もっと想像力なく、少女マンガ的にくろすけにピアスの箱を渡されて、「ありがとう・・・」なんて涙ぐむ、背中にはバラの嵐で二人はフリフリブラウス、髪は縦ロール・・・みたいな想像をしていました。現実って、厳しい・・・orz

ほんと、店員さんも緊張はしていたとはいえ、対応は感じがよかったです(笑)。緊張といえばわたしもくろすけも緊張していて、プラチナじゃなくて18Kの台のものとか見せてもらうような余裕はありませんでした。笑。

おお。ヴァンクリフ、HPみたんですが、HPだけでも高そう。

そういえば、とある事情で帝国ホテルのジュエリーウエダという宝飾店に行ってダイヤについてあれこれと話をしていたときに、お隣に親子連れがいた(接客をされていた)のですが、

娘「あの、500万円の指輪がいいかなあ」
母「一粒ダイヤもいいけれど、エメラルドと組み合わせてあるのは800万円でちょうどお手ごろじゃないの?」

なんて会話をしていました・・・。世間って広い!
by しの (2007-08-15 18:14) 

しの

> 綾さん

おお、宝飾店にお勤めだったんですね。高額商品をお買い上げ、だと確かにその額だけで緊張してしまいそう。お店の評判ってありますもんね。お客様も何度もいらしていて一定のサービス(接客だけじゃなくて、宝石に対する知識そのほかも含めて)を要求されるだろうし。

わたし達の場合、店員さんが新人であっただけじゃなくて、お客であるわたし達もなれてなくて、三人そろって緊張していたのが敗因だと思います(笑)。そこにお局様の鋭い視線がスパイスを添えていたというか。新人教育期間だったのでしょうね。

女同士は気にしないですか~。そっかー。そういえば、わたしもハウスマヌカン(バブルの落とし子です)をしていたとき、その筋のお客様がいらして非常に緊張をしましたが、女性同士のお客なんてそういう点で接客も怖くないし、楽かも。

まあ、店員さんの震える指も楽しい思い出なのでそれを思い出せることはいいのかもしれません。悲しい思い出を思い出して涙ぐむよりずっと。
by しの (2007-08-15 18:15) 

しの

> くろすけ

緊張で手が震えるって自分ではときどきあるけれど、あそこまで震えてるのははじめてみました・・・。

そうそう、テーブルについたとき、くろすけは忙しかったんだよね。住所書いたりサインをしたり。そっか、観察できなかったのか。残念だね。わたしはもうしっかり観察しちゃったよ。もしかしたら、お局様視線よりもわたしの観察視線で緊張してたのかな???

せっかく見詰め合おうねとか、キスしようね、とか、いろいろと予定を立ててたのにね。イメージトレーニングまでしてさ。残念でした。でも、まあ、楽しい思い出ができてよかったよね。うん。ピアスを触るたびに切ない気持ちが帰ってくるよりはずっといいよ。笑。
by しの (2007-08-15 18:15) 

葉の茶

もぅ~、すっごい可笑しくて、真夜中だっていうのに、ゲラゲラ大笑い
しちゃった!(爆)
何か、あの高貴な雰囲気のティファニーで未だそういう店員さんを見た
ことがないからかなぁ~・・??

お局様と新入社員そしてしのさん&くろすけさんの姿を、かなり想像して
想像すればするだけ大笑いで。。
まぁ~、ある意味、一生忘れない出来事ですよね。
by 葉の茶 (2007-08-17 02:54) 

くろすけ

>葉の茶さん、
すごいおかしかったですよ。
一見の価値あり!でした。
店員さんの手に視線が集中してしまって、顔は覚えてません。笑

しのはいまネット回線の調子がよくないみたいで、
コメレスは少々お待ちくださいねー。
by くろすけ (2007-08-17 09:08) 

しの

> 葉の茶さん

本当におかしかったです。笑いをこらえるのが苦しかった。

その一方で店員さんが一生懸命になればなるほど緊張してしまっていろんなことがうまくいかないので、気の毒で。途中で本当に「自分でしますから」って言いたくなりました。

お局様がよくないよね・・・うん。

まあ、ほんとに一生の思い出です。笑。
by しの (2007-08-18 00:25) 

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