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自分のナラティブと現実の齟齬 [ちょっとまじめに]

人間が自分が自分でありほかの誰でもなく、生まれたときから死ぬときまで同一の人物であると認識するのは(果たして同一人物たりえるのか、他者は自分に含まれないのか、という哲学的議論は横においておいて)、自分の人生を破綻のないナラティブととらえることができるから、というDavid Carrの説が好き。

音楽をひとつのメロディーとしてとらえられるというのは、曲が始まってから任意の時点までの音の流れを覚えていて(これをRetentionというらしい)、これからの曲の流れをある程度予想できる(Protention)かららしい。人間はこのRetentionとProtentionというふたつのものが調和していないと音楽をひとつの流れとしてとらえられなくなるらしい。

人間の人生も一緒。今まで生きてきた過去と、これからそうであろうと思われる未来が調和していてこそ、自分がまぎれもなく同一の個人である、と自信が持てる。そして人間は意識的に自分の望む未来に向けて調和が生じるように自分の過去を構築していく―自分にとって望ましい出来事を拾い上げてナラティブに作り上げていきながら。

で、ミッドライフクライシスなどといわれるものなんかは、自分の人生に対するRetentionとProtentionが調和をしなくなって起きるものだそうだ。

自分が今まで疑いもしていなかった自分の過去を再構築して自分がこれから生きるであろう未来に調和させなおすか。

自分が生きるであろう未来を見ないふりをして現実逃避をするか。

自分が生きるであろう未来を「間違ったものだ」として、周囲や他人を非難して認めることを一切拒否して自分の現実と不毛な戦いをし続けるか。

選択は我にあり。


さらには、Protentionの形成は自分で自主的にしていると思っていても、実は親や先生や「世間様」や「お常識」から押し付けられた「Condition of worth(作られた存在意義)」によっている場合が多いですよね。「女だからやっぱり結婚して子供を産まないと…だから貴女を愛しているけれどやっぱり見合いでもして結婚しないと母親が…」なんてね。

まあ、ある程度こういうものがないと、社会が調和して機能しなくなるので、わたしやくろすけみたいな人は多くならないように様々なシステムがあるわけですな。といって、わたしが完全にCondition of worthから自由だとは思いませんが。でも、そういう縛りが自分の中にあるな~とぼけっと思う程度には意識しています。

そういう風に意識をしながら自分を見つめていると、Core-selfとロジャーズが呼んだところの本来の自分っぽいものが見えてきてそちらに向けてゆっくりと一生旅を続けていくのがわたしの幸せかのう…。

さてはて。

先日、くろすけのお母様をお誘いして食事とコンサートに行きました。お誕生日のお祝いってことで。しかし、困ったことにはその日のわたしのおなかの状態は超特急だったんです。

で、食事の席で、くろすけが9月に正式に婚約をして結婚をする手続きに入る、という話をお母様にしたのです。お母様は「ビミョー」とはおっしゃりませんでしたが、気持ちがすっきりしない、というようなことを言っておられました。

まあ、当然のことながら、お母様は時代背景もろもろから、くろすけには「幸せな結婚」を「素敵な男性」としてもらい「かわいい孫」を抱く「いい祖母」になる、というような未来を思い描いてそれにあわせて自分の過去を生きてきたのだと思うんです。

くろすけがわたしと付き合い始めても、彼女の中ではいつかはくろすけは男の人と結婚するに違いなく、自分のProtentionが現実になる日が来ると思っていられたんだと思うんです。一緒に暮らしだしてそれが少し揺らいだけど、それでも友達同士がルームメイトとして仲良くしていると思えば思えないこともない。もちろんそれは現実と違うので、今までに「ああ、彼女はRetentionとProtentionの非調和に苦しんでいるんだな~」と思ったりしていました(ヤナ奴だと思う)。

ここで、彼女をホモフォビアとか心が狭いとか言ってたたくことだって可能だと思うけれど、わたしとしてはそれは問題の解決につながらないし、これは政治レベルでの話じゃなくて個人と個人の関係のレベルであるからそういうのは意味のない行為だと思っています。だから、彼女を非難したり批判したりする気はないです。

それで、お母様の「いつかは男の人と結婚して欲しい」発言に対してくろすけは

「前に○○さんと付き合ってたときも、男の人だったけどあの人は駄目って言ってたじゃん? 男なら誰でもいいってワケでもないわけじゃん?」

などなど、的確に反論をしていました。そして、自分にとってはしのといることが幸せなんであって男の人と結婚して子供生んでというのは自分の求めているものじゃない、と言ってました。

わたしはそういうふたりの話を聞きながら、ここでお母様に「なるほど。貴女は自分はこういう人生を生きたいというイメージがあり、その中で娘さんにある役割を分担させたいのですね。そしてその役割を娘さんが拒否することで自分の人生が損なわれることを恐れているのですね」なーんてカウンセラー発言をしたら、くろすけもお母様もぶちきれるだろうな~、しかし、便所に行きたい、腹がいたい…。腹が痛い、腹が痛い、腹が痛い~…。

というわけで、その後のふたりの白熱した会話は聞いてるフリだけしていたのでした。いや、なんていうか同性カップル的にはかなりのカタルシスだったんじゃないかと思うんだけど、そこに忍び寄ってくる腹超特急の日常。すばらしい…とか思っているおばかなわたしです。

くろすけは、母親に自分がごねたら思い通りになると思わせたくないし自分はしのと結婚したいんだから、ということなので、予定通りに9月に手続き開始です。

それでも、自分の人生が思い描いていたものとはまったく様相の違うものになるであろう(年代的に自分の娘が女性と結婚っていうのは受け入れがたいだろうと思う)のはものすごくつらいと思います。また、彼女自身がそういう自分の気持ちを自分のものであって押し付けるのは良くない…でも主張したい…という葛藤の中にあるのがわかるので、やさしくしようね、とくろすけと話しています。


ちなみに、わたしがくろすけのお母様にやさしくできるのは他人だから彼女に対して距離を持って接することができるからだと思っています。自分の親なんか、もう、ほんと。笑。

くろすけは、以前だったら泣くまで許さんかったがあんなふうに振舞えるのは「しのがいる余裕かなあ」だそうです。

…って、結局惚気て尾張名古屋は城でもつ。









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コメント 2

くろすけ

今回母親と話していて感じたのは、僕が母親に「昔の彼氏との結婚にも反対してたじゃないか」っていったら、確かに。。って考え込んでしまったことで、昔だったら自分を省みることなんかなかったのに、母親も少しずつ変わってるんだなーって思った。
(その直後に、おまえはなんで変なのばっかりつれてくるんだ、みたいな超失礼なことつぶやいてたけど。。^^;)

ごねたら思い通りになると思わせたくないっていうか、時間をおいたら納得するなんて夢物語で、結局母親の思い通りになる気がない以上期待させるのは不毛だって身にしみてわかってるからさ。(少なくともうちの場合は、ね。)
逆に、納得しようがしまいがその状況に身を置いてしまえば人間どんな状況にも慣れるもんだよ。byナニワ金融道


しかし、しのが僕たちの話を聞いてないのは丸わかりだったから。。笑
by くろすけ (2009-08-02 09:56) 

しの

キャンって言わせたるんやな。カタにはめてしもたらあとは簡単やさかいなあ…っていつから借金取りになったんや、くろすけ。

まあ、変なのばかり、というのは余り反論はしないよ。過去のある穢れた女とか、子持ち女がたぶらかして、とか言われかねない状況だしね。ま、そこまで自省なしに言われたらわたしも黙ってないけど。

たしかに相手の思い通りになる気がないわけだし、時間を置いたら納得するかもってこっちが思っていても、相手は「自分の思い通りになった」という支配欲の満足にしかならない可能性も高いし。別にパラサイトしているわけでもなんでもないんだから、独立した責任のある個人として自分にとって一番幸せな道を選べばいいと思う。
by しの (2009-08-02 10:53) 

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