彼女のわがまま [ちょっとまじめに]
彼女はわがままをあまり口にしない。
欲求がないわけじゃないしそれがみたされなくて不機嫌にならないわけでもない。注意。
「なんでもするからなんでもいって」
知り合ったばかりの頃、彼女は彼女の事情で僕たちが一緒にいられないことに罪悪感を感じていて、口癖のようにそう言ってきた。僕は彼女の事情をはじめから知っていたから、むしろ今の状況は僕に責任があると思っていて別に彼女が後ろめたく思う必要はなかったし、なにかをして欲しいから一緒にいると思われるのがイヤだった。
それで僕はしばしば「しののわがままが聞きたいよ」って答えた。
その要求がかなえられることはあまりなかったんだけど。
僕の誕生日に彼女はひとつわがままをいってくれた。
くろすけの部屋に泊めて。たくさん抱いて。
ああ、こんなに惚気ててごめんなさい。<誰に?
書いててへにゃへにゃってなってしまう。
でもたくさんはいっつも抱いてるんだけどなー・・。
彼女のいう僕の部屋は逃避の象徴だったんだけどね・・。その頃僕たちはずっと彼女の部屋で会っていて、彼女にはそこを離れられない事情があった。いろんな事情がたくさんあった。
「わがまま」っていいかたが難しい。
欲求と要求の違いとか。実現可能性とか。
相手が受け止めてくれなかったらどうしようとか。
欲求は人と付き合っていたら自然に生じるもので、それを相手にして欲しいって求めるのが要求だと思う。
はじめの頃は僕も彼女も相手に何か要求するということはしてはいけないことだと思っていて、お互い無意識的にそういうことをしないようにコントロールしていた。と思う。
いまでは、どちらもお互いだけは例外でしてほしいことがあったら言うべきだって思っている。お互いが特別なんだって確認する行為として。
もともと僕は相手に何かしてくれることを期待することがないので(昔はあったんだけど気がついたらなくなっていた)「わがままをいう」ということにたいしてとてもタフだ。それに対して彼女は相手に何かしてくれることを期待してはいけないと自制していて、だから「わがままをいう」ためにはそれを乗り越えなくてはいけないので大変そう。そういう意味で僕たちにとってこの愛情表現はあんまりフェアじゃないんだよね。
まあ、お互い無理のない範囲でね・・。
いまは僕の方がわがままの言い方がうまくて受け止めるのは彼女の方がうまいので多くの場合そういう役割分担になってます。たまーに彼女がわがままをいっても僕がそれに気付かなくて彼女が泣き出したり・・汗。
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むずかしい。ほんとにそう思う。
であったはじめのころは、いつまで一緒にいることができるのか、それからどうなるのか、まったくわからなくて。ほんとにたくさん事情があった。やらないといけないこと、逃げることができない現実。そこで行われていたことは、誰にも手伝ってもらえないことで。ひとりで最後までやり遂げるしか選択肢がなくて。
ほかの人を巻き込みたくなかった。とくにくろすけを。あの暗い毎日に。
だから、よけいにわがままがいえなくて。くろすけの気持ちもどこにあるのか分からなくて。切なくて。
わがままを言ってほしいよって言われても、冗談にするくらいしかできなくて。
「じゃあ、カモノハシを買って」
なんてね。
半分本気だけど。ほしい。カモノハシ。記号の隙間にもぐりこむいのち。
そのとき、くろすけが本当に悲しい顔をした。冗談にすることで傷つけてしまったと、動揺してしまって。
とんでもないわがままを口走っってしまった(↑のじゃなくてね)。
それがね、今でも、たぶん、一番言いたいわがまま。とんでもないし、本当は口にしてはいけないことだとわかっていたけど。わかっているけど。
わがままを聞いてくれるんだったら、それを聞いてほしい。
それ以外はなんにもいらない。
・・・と、いいつつ、なきますが。スマヌ・・・。
しの
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聞いてるよ。
ずっと。これからも。
でもほかのわがままも聞いてあげたい。
・・・なかなかうまくできないのですが。ゴメン。