声が聞こえる。 [追想]
はじめてくろすけと話したのは電話だった。
声を聞いてすぐにくろすけだってわかった。
ちょっとテレながら、名前を言うくろすけの声が好きだと思った。
離れていて、くろすけの声がききたい、ききたい、と思い続けていた。
携帯電話にメッセージくらい残していてくれたら、それが聞けるのに。
くろすけはメッセージも残したことがなかったから。
夢の中で、くろすけの声を三半規管のおくから取り出そうとしている。
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でも、今日、新しい方法を見つけたね。うれしい。
テレながら、話すことがない、とか言ってるくろすけの声
何度でも聞けるんだ・・・。
それから、だいすきってメッセージが残せる。うれしい。
同じように思っているのってとっても幸せ。
これをしたら負担になるんじゃないかとか、
こんなことをしたら追いかけられてるように感じるんじゃないかとか、
束縛しているって思われたらどうしようとか、
そんなことを心配しなくてもいいから。
だから、たくさん、だいすき、って言える。
しの
鴨の味噌漬け [業務連絡]
くろすけはこんな想像をしてたみたいだけどさ。これはやっぱり、違うと思うよ。
鴨の味噌漬けは合鴨の胸肉の皮に切れ目を入れて、味噌1に日本酒1、塩を少し足して作った味噌ダレに2日から4日漬け込みます。それで、皮を下にしてよく温まったフライパンに油を敷かずに乗せます。皮からしっかり脂が落ちたらひっくり返して焼いて、出来上がり。ネギ味噌ダレを作る間、お皿の上において、休ませます。すぐに切らないんだよ。
鴨を焼いたあとのフライパンの脂を適当に捨てて(濃いのがいいなら脂はたっぷり、あっさりなら脂は少し)、そこでネギを小口ぎりにしたのをたっぷりとよくいためて、そこに鴨を漬け込んでいた味噌を入れて火をしっかり通してネギ味噌ダレを作ります。絹ごしゴマを足してもいいし、山椒を足してもいいと思う。甘辛味が好きなら砂糖を足してもいい。でも、くろすけは甘いのが嫌いだから、砂糖は足さないでね。
ネギ味噌ダレができたら、休ませていた鴨肉を薄く切って、タレと一緒にいただきます。
酒の肴に最高です。今夜も酒がうまい。うぃ~。
<注意> 胸肉・・・とか言って妄想はしないでください。仕事してください。わたしの方は、状況は改善中。
しの
さみしいね・・・ [好き]
くろすけとあんまり話せない日が続く。
ハープの調弦をしていたら、弦が切れた。
切れた弦が鋭利な音とともに空間を切り裂いた。
切れた弦はくろすけのやさしい低い声に似た音を出していた。
そこだけ不自然に弦の間隔があく。
とっても寂しい。
しの
まちあわせ [追想]
待ち合わせ場所では彼女が新聞を読んでいた。
僕は隣に腰掛けて新聞を覗き込む。
白いTシャツに蒼く透き通ったイヤリング。
レモンスカッシュ。
ころころと転がる彼女の声。
今日は結構な日差しの強さだったよ。
日差しの白さのなかにもしのの姿を探している。
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はやく状況が落ち着くといいね。
あまり話せないので僕もとってもさみしくなってる。
愛してるよ。
猫がいたね。 [追想]
あの時、本当に切なかった。
其処此処でひぐらしがないていた。潮騒みたいに。
でも、暑くてね。とっても暑くて。北の国に住んでるわたしはふらふらになっていて。
汗だらけで、ちょっとうっとうしい感じで。
それで、顔でも洗おうって水道に行ったら、猫が蛇口のところに座っててね。
哲学的な顔をして、難しいことを考えてるみたい。
手のひらから水を飲んだね。
茂みの中で猫の親子が誰かがくれるえさを食べていたね。
かわいい子猫でさ。
抱っこしたいな・・・って思って、気がついたら子猫を抱いていた。
かわいいねってくろすけに言っても、なんにも返事してくれなくてさ。
抱きたい? なでたい?って聞いても、
なんにも言わなくて。
眼を丸くして、起きている事態が把握できないって感じで
口を開けたり閉めたりしてるくろすけがだいすきだと思った。
親猫が一生懸命に子猫を返してって頼むので、
ごめんねって謝って子猫を返した。
それから元町に向けて急な坂を下りていった。
夕暮れの空気の蒼さが胸を染めた。
一歩一歩、歩くたびに一緒にいた時間が長くなる。
一歩一歩、歩くたびに一緒にいれる時間が短くなる。
せつなくて。
せつなくて。
せつなくて。
くろすけの澄んだ瞳のなかだけ時間が止まってるみたいだった。
その中にずっといたいと思った。
そのとき、くろすけがしてくれたキス。
蝉時雨は、もう、やんでいたね。
しの
あれがあなたの好きな場所 [追想]
彼女が国へ帰る少し前に
港の見える丘公園でデートをした。
飛行機雲が水平に流れていって
それをみていると
そのまま永遠に時が止まるような気がした。
彼女と出会ったばかりの頃は
明日にも彼女がいなくなってしまいそうで
いつも刹那的な気持ちで
その一方でその状態には永久に終わりがないようにも感じていた。
ちょうど、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の主人公が時間を分割して分割して永遠に飲み込まれてしまうような感じかな。
蝉時雨が周期的に僕と彼女の間を行き来する。
ちゅちゅちゅ [触れる]
彼女は口をすぼめて
ちゅちゅちゅ
って僕を呼ぶ。
猫を呼ぶのと一緒。
僕は何をしていてもかならず手を止めて彼女にキスをする。
会話の途中でも会話をやめてキスをする。
彼女はご満悦。
ちょっと口を尖らすだけで僕は彼女の思うまま。
誰も触れたことのない深いところに [触れる]
そのときは、抱いているうちにしのが後ろを向いたんだよね。
はじめて目にするしのの白い腰のラインにどきどきした。
今思えば僕の指から逃げようとしていたんだけど、そのときはまだしのは経験豊富そうに振舞っていてさ。後ろの経験もほのめかしていたから、後ろもして欲しいのかと思って。
しのも、僕が入り口を舌先で愛撫している間も入れた後も何にも云わないしさ。
小指だったけど勝手がわからなくて出し入れをし過ぎてしまって、抜くときも痛そうだった。
入れた状態でぐりぐりした方が良かったよね。
痛かった・・ってしのにいわれて
そうしたらもっとほぐさないとだめか。
って答えたら
調教するの・・・?
って。しばらくの沈黙のあとにしのは小さな声で聞いたんだよ。
そういうときの、恥ずかしくても自分が逆らえないことを知っている諦めを含んだ表情がすごく色っぽくてくらくらする。
その日の夜は、もっと時間をかけてやわらかくして、人差し指でしたんだよ。奥の方をかき回すとしのの体の芯に触れてる感じがした。そのときはしのもすごく感じてるみたいで。四つん這いで。恥ずかしそうなんだけど熱く湿って。ちょっと指を動かすだけで腰がびくんてなって・・。
誰も触れていないしのの部分に触れることができてすごくうれしかった。
きつく締め付けられる小指の甘い痺れをまだ覚えている。
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しばらく前にしのに出したメールにあのときのことが詳しく書いてあったね。笑