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Baucis and Philemon [好き]


貧しいバウキスとフィレモンは子供もなく、自分たちの小屋の番をするガチョウを愛して静かに生活をしていました。二人の小屋は谷の村のはずれにありました。




ある嵐の夜、二人の旅人が村に来ましたが、村人たちは旅人を迎え入れることを拒否するだけではなく、ひどい言葉を投げかけて追い払いました。




二人の旅人はバウキスとフィレモンの小屋を訪れました。貧しいバウキスはレンガのかけらで傾いたテーブルをまっすぐにしその上にミントの枝を広げ、よい香りを部屋中に満たしました。そして旅人に食事を馳走しました。オリーブ、ローストした卵、シチュー、ナッツ・・・。




食事が終わり、空になったワインを入れたつぼをバウキスが見ると、ワインがなみなみと入っているではありませんか。




バウキスはフィレモンを呼んで言いました。




「空になったはずのつぼにワインが満たされています。この人たちはゼウス様とポセイドン様に違いありません。よき夫よ、どうかガチョウを〆てきてください。羽をむしり蒸し焼きにして神前に供えましょう」




フィレモンはうつむきながらも妻の言うことにうなづきました。




しかし、年老いたフィレモンはガチョウを捕まえることができません。ガチョウもフィレモンの様子がおかしいことに気づき、必死で逃げます。




そのフィレモンの前に神たちは立ちました。




「年老いた人たちよ、そのガチョウを許してやりなさい。そして、わたしたちについてきなさい」




ゼウスとポセイドンに二人は従いました。谷を上り稜線に立ったとき、振り向くと村はなく湖が広がっているだけでした。神に対して邪険にした人々は滅ぼされてしまったのです。




「善良な二人よ、汝らの望みをひとつずつ聞き届けよう」




ゼウスとポセイドンがバウキスとフィレモンに言いました。バウキスは




「それではわたし達の小屋を金の神殿にしてくださいませ。そうしてわたしたちは神を祭って残りの一生を過ごしたいと存じます」




次はフィレモンの番です。二人は長く一緒に過ごしているのでフィレモンの望みはバウキスの望みでもあります。フィレモンはゆっくりと口を開きました。






「それでは、わたしたち二人を同じときに死なせてください。わたしが妻のなきがらの隣に立つことがないように。妻がわたしの墓の前で嘆き悲しまずに済むように」










何年もたったある日、フィレモンは妻のかすかな叫び声を耳にしました。手にした鍬を打ち捨てて、よろよろと妻のところに行くと、バウキスはじっと自分の足を見つめています。足はゆっくりと木に変わっていっています。フィレモンは妻の腰を抱きました。バウキスは夫の背に手を回しました。二人は最後に見つめあいました。




「愛するものよ、さようなら」




そういうと二人は指の先から木の芽が伸び始めるのを感じました。フィレモンの髪の抜け落ちた頭からは枝が伸び始めました。そうして二人は木になりました。




金の神殿はもう影も形もありませんが、今でも湖は静かに水をたたえ、その横には二本の木が立っています。樫と菩提樹は互いを抱きあってどの枝がどちらの枝とも定かには見分けがつかず、違う木でありながらひとつの木になっています。そしてその枝には世界中の恋人たちからの貢物が結び付けられ、湖面を渡ってくる風に揺られています。




******************

今週、BBCのRadio4では午後の朗読で世界の伝承文学をテーマにしています。水曜日の話がこのバウキスとフィレモンの話でした。




わたしはいつも、神様がなにか願いをかなえてあげる、と言ったら何が望み?と聞かれたりすると




「あなたの願いをかなえてあげるというものがわたしの前に現れないこと」




がわたしの望みである、とかわいげのないことを言ったりしていました。だって、だいたい三つの願いをかなえるとかそういうのってひどい結末に終わるものが多いじゃないですか。それとか、神様が「石がほしいか、バナナがほしいか」って親切にしてくれた夫婦に聞いたら妻がバナナを選んだので人はいつか死ぬことになったとかさ・・・。




なので、この話を聞いていたときも、神様がいざ望みをかなえてあげる段階になって、いったいどんな皮肉な結末になるんだろう、と思って聞いていました。




そして、この願いを聞いてなんだか涙が出てきました。この記事を書きながらもう一度聞きなおしているのですが、もう駄目です。涙が止まらない。




以前、くろすけが「連理の枝になりたいね」とわたしに言っていました。本当にそうなれたらどれほどいいだろう・・・!










この話、こちらで11月20日まで聞くことができます。




ここに書いた話は正確な翻訳ではないです。聞きながらだだだーっと適当に書きました。省いた箇所もけっこうあります。


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コメント 16

くろすけ

僕もどんなひどい結末になるのかなーって思いながら読んじゃった。^^;

この物語みたいな死に方?は現実にはできないけど、こんな風に最後までお互いを思いあっていられたらいいね。
by くろすけ (2007-11-15 16:18) 

asami

いい話ですね。これこそ愛って感じだなぁー。
古典芸能の心中ものは悲劇だけど、共に最期を迎えられたら、っていうのは似ているのかな(あっちとこっちとでは迎える意味合いが違ってるけどね)。
それでもどれだけ幸せな結末かことか。。。
by asami (2007-11-15 18:38) 

くまろん

同時に逝けたら幸せだろうけど、たいていどちらかが先に逝ってしまいますよね。
できれば私は彼よりも後に逝きたいなぁ。
彼はとても寂しがり屋だから、最期は私が手を握っててあげたいです。
by くまろん (2007-11-15 21:15) 

綾

「わたしたち二人を同じときに死なせてください」…ですかぁ~。
何だかため息が出てしまいます。
そんな願いを、想いを持つことができる純粋さ(?)が欲しいと思いました。

しのさんの願いも潔いな~って思います。
可愛げないって書いてますけれど、十分に素直な可愛さのような気がします。

もし、願いを叶えてくれる者が現れたら、私は何を願うんだろうなって
ちょっと考えてしまいました。(欲深いから、いらんコトばかりが…^^;)
by 綾 (2007-11-15 21:39) 

まりえ

私も読みながら涙ぐんでしまいました。
中山可穂の短編の中にも年老いた2人が同時に死ぬ話があって、それも読む度に泣いてしまいます。
良いお話ありがとうございます☆
彼女との間に例えば人工授精とかで子供を作るつもりはないので、たまに老後のことが心配になることがあります。
彼女は「先のことを考え過ぎ」と言いますけど。
確かにそうなんですけどね。
今を生きるしかないですもんね。

それにしても、神様達、救うべきはむしろ水に沈めた村人の方なのでは?と、この手の話を読むと思ってしまいます。
by まりえ (2007-11-15 22:10) 

しの

> くろすけ

オルフェウスの話とかあるからね。老人をいじめたらあかんでーって思いながら聞いてたよ。

一緒の時に死ねたらいいってお互いに思えるのって、幸せだよね。あなたがいなければ生きていけないとかじゃなくてさ。フィレモンがいうみたいに、わたしのなきがらの隣にくろすかが立つのも悲しいし、くろすけをわたしが棺に納めるのも悲しいから。
by しの (2007-11-15 23:09) 

しの

> asamiさん

いい話ですよねー。皮肉とか嫉妬とかそういうものが渦巻くギリシャ神話の世界としては破格にいい話です。でも、この話は今まで聞いたことがないんだけど。

心中ものって、なんとなくベタな感じがしつつも惹かれて、いまだに近松ものが人気があるのも、ともに最後をって願うところに愛を感じるからなのかな。
by しの (2007-11-15 23:10) 

しの

> くまろんさん

彼さま、愛されていますね。いいなあ。最期は手を握ってあげたいって読んで、とても暖かな気持ちになっています。

同時にってなかなか無理ですもんね。だから神様にお願いをしてしまうのかな、とも思ったり。
by しの (2007-11-15 23:10) 

しの

> 綾さん

二人同時に、と聞いたときに、くろすけとだったらそう願いたいと思いました。が、元夫に対しては思ってなかったんですよねー・・・。わたしのばあちゃんがやっぱり旦那さん(モラ夫でした)が死んだ後、ものすごく元気に幸せに暮らしていたのを見て、自分もそうなりたいとかひそかに思っていたり(笑)。

どんな願いでもかなうのなら、っていうのは、人類にとって永遠の命題かもしれませんねー・・・。確か、Xファイルでも、モールダーが三つの願いを絨毯の精(立ったかな?)にかなえてもらえる、というのがあって。あれも、結末がなかなかうならされるものだったのを覚えています。
by しの (2007-11-15 23:10) 

しの

> まりえさん

中山可穂にもそういう話があるんですね・・・。

高齢の同性愛者にとっては自分の死後のパートナーのことって、同性婚がない国においては真剣な悩みなんだろうなと思っています。たとえば、自分の名義の家だった場合、自分が死んじゃったらパートナーは遺産相続ができなくて追出されちゃいますからね・・・。実はそのあたりのことを考えて、とりあえず、わたしの住んでいる国においてだけでもくろすけの権利が認められるように、遺言書そのほかの法的手段をとることを考え始めています。

・・・まあ、先のことを考えすぎなんですが。実は、離婚に絡んで遺言のことを整理しないといけなくて(たいした財産もないのだが)、その時に弁護士さんからきちんと考えておくように、と怒られたのでした(笑)。

実際、バウキスとフィレモンには子供がいなくてガチョウを大切に愛しているとか、けっこう同性愛者カップルみたい・・・って思いながら聞いていました。

そして、神様が救うべきは村人のほうって激しく同感です! 善良な人たちに報いるのはいいけれど、神をも恐れない罪びとを救ってこそ神様だよねえ・・・。なのに自分が気に入らないと、湖のそこに沈めて皆殺しって・・・お前は、ブッ○ュかよ!って突っ込みそうになりました。笑。
by しの (2007-11-15 23:10) 

fairy

神様が願いを叶えてくれるのなら、「何気ない日常を感謝しながら愛する人と共に過ごし、愛する人と一緒に終える人生を与えてください」ってお願いしちゃうかな。
恋人と10歳年の差あるので、一緒に一生を終えることが出来たら至上の幸福って思ってます。それが無理なら、恋人との人生を毎日想いながら、時々文章にしたりして、老後を過ごし猫を膝に抱いたまま眠るように死ねたら幸せ・・・とか欲張りなあたしは思ってしまいます(笑)
どっちが先かなんて分からないですけれどね(^_^;)

>「あなたの願いをかなえてあげるというものがわたしの前に現れないこと」

そう言われた神様の顔が見て見たいデス(笑)
きっと、鳩マメてっぽでしょうね~(笑)

お話・・・感動しました(/_;)
by fairy (2007-11-15 23:19) 

しの

> fairyさん

望みをかなえてあげる、といわれるとどうしても欲張りに考えちゃうけれど、世の中のほとんどのものってお金で買えるんですよね。どこかのクレジットカードの宣伝ではないけれど、お金を出しても買えないものを望むとすればやっぱり愛する人と過ごす人生になるんだろうな・・・。まあ、相手が同じようにそれを望んでくれているとしてですが(汗)。

火曜日の話も神様にお願いをかなえてもらう話なんです。インドのシバ神の話なんだけど。いかにも民俗伝承って感じで現代風のひねりも入っていて、結末に皮肉のパンチが効いていてそれもよかったです。

まあ、しかし、あれですよね。全知全能の神なら、どうすれば人が幸せになるかを知っているはずで、いちいち「お前の願いはなんだ」とか聞いてきませんよね。きっと。
by しの (2007-11-16 00:53) 

adejyo

感動しすぎてnice!ボタンを押す手が震えましたよ。
ウチも樫と菩提樹になりたいです。

アタシの方が年上だから、逝くときはきっと先になるだろうけど、
それってある意味幸せなことなんだと思う。
残されることを考えたら怖い。
だから『樫と菩提樹』希望です。

でも実際に神様に願いを聞かれたら、
「札束がぎっしりつまったロールスロイス10台」とか
言ってしまう下世話なアタシがいそう・・・_| ̄|○ il||li
by adejyo (2007-11-16 01:20) 

しの

> adejyoさん

うちもわたしのほうが年上なので、自己中心的にわたしのほうが先に逝くし、それは幸せだなと思っています(勝手に天寿を全うしまくるつもりで)。

残される、というのはあまり考えたくないです・・・。それで、本当にこんなふうに連理の枝になって長い時を過ごせるのであればとても幸せだと思います。

札束が詰まったロールスロイス、いいですねー。一粒で二度おいしい。あー、でもでも、子猫が一杯入ってるロールスロイスと猫のえさ一生分(←ここが少し生活感でちゃってますが。笑)、とか考えて、ちょっと萌え~ってなっています。ふにゅふにゅの子猫がいっぱいいるロールスロイスのシートにゆっくりと腰を下ろして、ドライブ~・・・ぽわーん。
by しの (2007-11-16 03:14) 

adejyo

やめてっ!!!しのさんそれ以上言うのはっ!!!

あ、アタシは札束の詰まったロールスロイスが欲しいのっ。
決して子猫ちゃんがつまったロールスロイスなんて・・・ぽわわーん。

どえりゃあカワイイじゃないですかぁ~(人´∀`).☆.。.:*・゚
by adejyo (2007-11-16 04:45) 

しの

> adejyoさん

もうふにゅふにゅのぬくぬくですよ。肉球触りまくり。

子猫ハーレム。夢よのう・・・。
by しの (2007-11-16 05:03) 

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